ファッションセンスには自信あり、でも仕事のデザインは語れない
私がビジネスパーソンとして企画者のとき苦手だった一つがデザインへのコメントを求められることでした。
自分自身は小学生の時、叔父からもらったメンズファッション雑誌でファッションに興味を持ち、キャプションを記憶するくらい読み込みました。
エンジニアだった当時出始めたコムデギャルソンやY’s、isseymiyakeなどのアパレルを給料を顧みずに購入し、トップファッションはこれだよと、毎日、青山界隈に出かけおしゃれを楽しんでいました。
ビジネスパーソンのみなさんも同様にデザインを最も身近に感じるのはファッションでしょう。服から靴・帽子・バッグ・腕時計・アクセサリーなどです。そしてインテリア・リネン類・食器などもあり、自転車・車もデザインが気に入って購入することが多いと思います。
仕事で着るスーツや靴はオーセンティックなスーツスタイルでも休日はスポーティーなスタイルになったりすることもあるでしょう。ファッションのトレンドには気を使いシャツやパンツやシューズのデザインやブランドを気にしているでしょう。
テイストも学生のころから変わらないスタイルを貫いている方もいれば、時代や年齢に応じて変化している方もいると思いますが、自身が好きなデザインのテイストやスタイルはしっかり主張出来ていると思います。
このようにみなさん自分が購入するモノについて主張は十二分にできますが、仕事のデザインになると分からないと言ってしまうビジネスパーソンが多いと思います。
私もファッションはトップファッションですから、デザイナーからデザインの意見を求められました。お手並み拝見と言った感じでしょう。いろいろと言ってはみたモノの「変なこと言ってないかな?」と冷や汗ものでした。
困った挙げ句に「こういうのは好きじゃない」とか「〇〇みたいな感じにならないの?」などと無責任なことを言っていたと思います。自分のファッションセンスには自信はあるつもりでしたが、みんなに褒められるのは服ばかりで、仕事としてのデザインに対しどのようにコメントをしたら良いかスキッリせずに悶々としていました。
デザインにおけるプライベートと仕事の境界線
デザインを語る際に、自身のファッションについては突き詰めると自分が責任を追うことができますが、ファッション以外になると、他者との共有という社会的な責任が発生するため、自分の好みだけでデザインを決定することが難しくなります。
これは自分だけで決められないモノのデザインには興味を持っても仕方がないと考えているからではないでしょうか?
このようなデザインへあまり関心がない状態で企画者としてデザインに関わる必要が生じた場合、デザインに対してコメントを求められた場合に困ってしまいます。
ダサい奴に俺のデザインのコトをとやかく言われたくない
商品企画を担当しているとき、私の担当する企画でデザイナーとエンジニアが言い争っているのが聞こえました。
行ってみるとエンジニアE君に対してデザイナーD君が激怒しています。
D君は「そんなダサいネクタイしてる奴にとやかく言われたくない!」と騒いでいます。
聞いてみるとE君は私に「D君の描いたレンダリングでは設計図面として具現化できない「P」という箇所あり、現在の設計標準に照らし合わせるとこのような形になる」と主張してきました。
対してD君は、「今期のブランディング上のキーワードを象徴している「P」はデザイン上でこだわっているポイントなので、変更はできないですよね?」と私に主張してきます。
このようなことは大なり小なりデザインをしていれば起き得ることです。
このようなときエンジニアもデザイナーも前向きに話し合い、お互いに製品コンセプトから譲れないポイントは主張し、変更可能なところは虚心坦懐に話し合い、歩み寄ることで、少しずつでも技術もデザインも進歩させながら企画を前に進めることが定石です。
E君に言わせると「D君のこだわっているPポイントだけど、金型の構造からこの形にしたら高くなり過ぎてマーケティング条件から大きく外れてしまいます。金型代が5倍近くになっても良いですか?」と主張してきます。
デザイナーD君、エンジニアE君の主張はお互いにもっともです。
両者の意見は尊重しなければ企画が成立しないのはよく分かりました。
私はこのデザインは非常に優れていることは認めていました。このディテールは既視感のない斬新なデザインポイントになっていることに対して、全体の塊感は懐かしさという既視感があり、トレンド感を先取りした絶妙なデザインで、D君の主張がこの企画の肝であることは分かっていましたので、なんとか具現化したいと考えていました。
「デザインのことは良く分からないけどPポイントはそんなにかっこいいとは思えないから変えてよ・・・」
この検討の最中にE君が言ってはいけないことを言ってしまったのでD君が激怒しまし、事態は収まらなくなったということです。
結果は私がデザイナー、エンジニア両サイドのリーダーを集め再検討を行い、E君が主張しているPポイントにつながる周囲の造形が金型の形状を制限していることが分かりました。
そこで、Pポイントの周囲を少しずつ形を変えることでなんとか設計条件をクリアできそう。ただしこの変更を行うとPポイントにつながる部分の形も少し変更が必要になるという妥協点が見つかりました。
この折衷案のよって企画を進めヒット商品になりました。
この事例は商品企画を取り仕切るビジネスパーソンが良く遭遇するジレンマであり、トレードオフの関係をどう裁定するかビジネスパーソンの洞察力。そして企画を絶対に成立させるという強い意志が求められます。
ビジネスパーソンに求められるセンスとは
ビジネスにおいてプロダクト開発プロジェクトの起点となる企画はビジネスパーソンが立案者となります。求められる能力は「ビジネスを論理的に組み立てができること」と「製品のビジネス環境への洞察力がある」そして「何が何でも企画を成立させるという強い意志を持つ」ことです。
ビジネスの論理的な組み立てについては、すでに様々なマーケティング手法を熟知していると思います。
このビジネスの裁定に求められる「製品やビジネス環境への洞察力」とは具体的にはどのようなことでしょうか?
絶対に企画を完遂させるという意志の継続性については別途記します。
洞察力とは洞穴の中を察する能力、つまり未知のことを感じ取る能力で、ここでは未だ見ぬ市場の将来の流れを感じ取る力です。これを広く捉えるとセンスということになると思います。
「センス」とは広辞苑によると「(1)物事の微妙な感じをさとる働き・能力。感覚。以下略(2)思慮。分別」とあります。製品の企画ではこの(1)物事の微妙な感じをさとる能力や感覚を活かし企画案全体をコントロールすることがビジネスパーソンには望まれています。
望まれているからこそ、製品のデザインに対してコメントを求められるわけで、企画の提示という問題提起だけでなく、開発により生まれるソリューション(成果物)への微妙な感じを、つまり「デザイン」に対するさじ加減の調整が前述のビジネス上での裁定と考えられます。
誰もが日頃からさまざまなデザインに囲まれ、それらを選択し生活しています。
ビジネスパーソンもこれらの選択によって、社内外の周囲の人々にトレンドを感じ取る能力や感覚を本人も自覚のあるなしに関わらず顕在化させています。
ビジネスパーソンにとって、「ビジネスを論理的に組み立てができること」は分かり易く顕在化できますが、同様に「センスの良い人」という称号を得ることも必要です。
まだ見えない未来を切り開く「新企画」を任せるリーダーを判断する規準が、この「論理的かつセンスがある」であることは、ビジネスパーソンのコンセンサスになっていることで間違いありません。
このようにデザイン的素養や主張を持つことが求められることは、みなさんも感じていると思います。
センスのある人という称号を得るためには、まずはデザインの重要性を認め、トレンドを感じるセンスを磨くことです。
トレンドを感じるとは現在進んでいるプロジェクトの中で、デザインが的確かどうかを判断することです。
これはデザインが指し示す特徴点がプロジェクトの目標に合致しているかということであり、アートとしての新規性や先進性を評価するということではありません。
ビジネスパーソンが求められているデザインセンスはトレンドを感じ取るデザインセンスです。
このトレンドは現状の延長線上にあるか、揺り戻しまたは、視点をいつ変えるかということを考えることで予測していくことが可能です。
次回はこのビジネスパーソンにとっても大切なトレンドを感じ取るデザインセンスの磨き方について考えていきます。


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