ビジネスパーソンのデザインに対するマインドセットの変化

ビジネスパーソンのマインドセット

 ハードウエアやアプリケーションから、インターフェース、パッケージ、広告は以前からデザインされていましたが、それらを伝える手段がWEBやSNSといった誰もが発信出来るメディアが主流となった現在はデザイン対象が多岐に渡るようになり、すべてのビジネスでデザインが必要になりました。

 デザインに関わりが薄かったビジネスパーソンも、上記のように広がるデザインに対し意見や判断を求められる機会が多くなっているのではないでしょうか。デザインとの関わり方の線引きがとても自分に近くなっていることを感じると思います。

 自分の意見をデザインに反映させたくても、その方法が分からずに仕上がりがデザイナー次第になってしまうため、自分の仕事の範疇はデザイナーの選定までと思い込んでいるビジネスパーソンがほとんどです。

 ビジネスパーソンがデザインに積極的に関りたいと考えているのに、うまく関わることができないのはなぜか。

 このブログではデザインをデザイナー任せにするのではなく、ビジネスパーソンが主体的にデザインに関与するために必要なマインドセットについて、さまざま視点から考えます。

まず初回はビジネスパーソンがデザインと主体的に関わる重要性が高まっている背景です。

デザインの需要は増している

 わたしは、エンジニアとしてキャリアを始め、商品企画・マーケティング・ビジネスアライアンスをビジネスパーソンとして経験しました。

 その後デザインがビジネスに与える影響の大きさに気づき、デザイナー・デザインディレクター・デザイン研究者・大学のデザイン講師と、ビジネスとデザインの関係を考えてきました。

 前述したとおり、ビジネスのあらゆるところにデザインが必ず存在し、営業の最先端・官公庁・学校など、デザインを全く必要としない仕事は無くなってきました。

 以前から製品開発や広告につかうデザイン開発は存在し、デザインに携わる担当者は、商品開発の企画者や宣伝部の専任者など、ごく一部の人が集中的に対応してきました。

しかし現在はあらゆるビジネの現場で、ビジュアルの活用のためにデザインが求められ、さまざまなビジネスパーソンが自律分散的にデザインと関わっています。

 私はこの10年あまり、ディレクターとして製品のデザイン開発とそれに付随する広告宣伝という、ユーザーへの情報発信の責任者としてデザインの責任を担っていました。

いまでも製品のデザイン開発が終わればカメラマンやグラフィックデザイナーと広告の作り込みを行い、デザインのフィニッシュまで事細かに指示しています。

 しかし現在ではオンラインに多くの情報があることが必要です。検索し製品情報がスマートフォンやPC上に表示されなければ、製品は存在しないことになります。

 またユーザーや販売員が自らの言葉による製品レビューという本音によるリアルな情報が求められています。

 このような変化からオンラインでのビジュアルは製品毎にコンセプトに合わせて制作する必要があり、デザインする制作物は飛躍的に増大してきました。

 これらの仕事をタイムリーに対応するためには、デザインを中央集権的に制作したのでは間にあいません。そのため自ら写真や動画を撮り、テキストをつけるなどの簡単な加工を施しオンラインにアップする必要に迫られ、すべてのビジネスパーソンが自律分散的な対応を行うようになりました。

 これにはデザイン制作が誰でも簡単に出来るようになって来たデジタル技術の革新も大きく寄与しています。

 一連の流れはどのような業界でも行われ、今後もますます増えていくと思います。

これからは自律分散型で作られるデザインクオリティを如何に高めていけるかがビジネスの成否を分けていきます。

 これらデザイン需要の増加は、ビジネスパーソンがデザインの判断をしなければならない機会が増えていることを表します。

 例えば企業のお知らせは、以前はテキストだけで済んでいましたが、現在はSNSへも掲載が求められるため、グラフィックデザインとして成立させることが求められます。

デザインとビジネスパーソンの役割の変遷

 ビジネスはデザインを大幅に増やしていることに加えて、デザインとビジネスパーソンの関わり方も大きく変化しています。

 ビジネスはテクノロジーの進歩によるユーザーニーズの高度化により変化してきました。そのなかでも大きく変わってきたのが、ユーザーサイドとビジネスサイドの関係性です。

 そこで視点の違いからデザインの変遷をたどってみます。

第1世代

 まず経済成長期のビジネスの目的はユーザーに便利な機能を安価で提供することでした。次々に開発される技術によって製品を工業化し、大量に販売していた時代です。製品はテレビや冷蔵庫やエアコンなどに代表され、デザインは作りやすい形態にすることが求められました。

 これがデザインの第1世代です。この頃のビジネスパーソンは出来た製品の販売に専念していました。

第2世代

 生活の利便性をあげる製品は社会に行き渡り、次いでビジネスパーソンは、ユーザーの欲望を生み出すマーケティング活動を始めました。代表的な例は、自動車の新モデルが毎年発表されたことです。デザインはこのマーケティング活動を外観に落とし込むことに利用されました。

 これがデザインの第2世代です。

第3世代

 2000年代から様々なサービスがネットを介して享受できるようになりました。同じサービス内容でもユーザエクスペリエンス(UX)の違いが顧客満足度に大きな差を生むことが明らかになりました。そのためブランディンングに関わるビジネスパーソンとデザイナーが、ユーザーとの共感を検討するために、デザイン思考が生まれ使われました。

 ここでのUXの向上は、製品のデザインもさることながら、ユーザーへの情報発信による関係作りが大切でした。製品を如何に魅力的に演出するかということにデザイナーが腐心した時代です。

 しかしこの時点で情報は「この製品を使うとこんな楽しい未来が待っています」というストーリーを、ビジネスサイドから発信しユーザーサイドが受け取るという、いわば一方通行の構図でした。

第4世代

 そして現在はスマートフォンの普及によりユーザー情報とのマッチングを常時行うことが可能になりました。ビジネスサイドとユーザーサイドは情報が双方向に流れるインタラクティブな関係を作り出しました。

 インタラクティブな関係性はユーザーが求めているコトへの共感を発端として、ユーザーが自ら製品に対する私見を発信することから生まれます。

 このビジネスサイドとユーザーサイドの相互関係性を繋ぐためにナラティブ(物語)が中心的役割を担っています。

 ナラティブはユーザーがSNSで「リポスト」「いいね」「コメント」などのリアクションを相互に起こすことで生まれます。このインタラクティブな関係性から生まれる多様性と即時性、さらにビジネスを感じさせない信頼性と安心感が、ユーザーに強く支持されています。

 ナラティブは、製品へのロイヤルティを高め購買行動に直結するため、ビジネスサイドでもナラティブを如何に企画し  育てるかという計画性が重要になっています。

 これは今までのようにマーケティングやエンジニアリングだけで作りだせるコトではありません。ユーザーとのタッチポイントを最前線で担っているビジネスパーソンの肌感といった情報をデザインすることで作り出されます。このため豊かなナラティブの提案には、ビジネスパーソンの関与をますます必要としています。

 このナラティブの可視化が求められているのがデザインの現在地である第4世代です。

まとめ

 このようにデザインとビジネスの関係性が変わりました。デザインは第2世代まではニーズを可視化しユーザーに伝える通訳の役割を担い、同様に第3世代ではブランド情報をユーザーに伝える役割を果たしてきました。

 この通訳を介さず、情報発信の主導権をユーザーサイドに移行させることで第4世代のナラティブが生まれました。

 しかし豊かなナラティブを育てるためには、ビジネスサイドから分かり易い形でのユーザーサイドへの情報提供が必要です。

 そのためビジネスパーソンは、積極的にデザイナーと協働してナラティブの元になる情報を可視化し、ユーザーに提案し続けることが求められています。

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